なぜ、新型インフルエンザが見つかったか?
国内初の新型インフルエンザは、国内で人から人への感染が生じていた状態で、かつ、高校バレーボール部を中心にセミ・パンデァックに至ってから見つかった。
ということで、「なぜ、新型インフルエンザが見逃されたのか?」という題名で記事を書こうかと構想を練っていた。
筋としては、
1.「空港等での水際対策→潜伏期などにより水際で発見されなかった者が見つかる→隔離治療→当然ながら、完全はありえないので、それでも人から人への感染→封じ込め→蔓延期の対策」という最も起こりえるシナリオが想定されていた。
2.医療資源などには限りがあるので一定のシナリオを作り、資源配分の最適化を図ることはやむを得ないし、全ての入国者を一週間隔離・観察することもできないことを考えれば、これはおかしくない。
3.また、シナリオ自体は自然であり、水際対策がどれくらい有効化というような各部分の評価は別とすれば、おかしなものではない。私も、最初は、水際から漏れた者でなく人から人への二次(以降)の感染者が最初に見つかったのはびっくりした。
4.これはシナリオを信じすぎてしまい、患者のフィルタリングに「渡航歴」をつけてしまったためである。医療資源から、フィルタリングを行うことはやむを得ないことかもしれないが、そのリスクも認識しておかねばならなかった。
5.抗がん剤治療でも、治験や治療経験をもとに、最も起こりえるシナリオを想定し、特に注意すべき副作用を考えておくことは有意義であるが、シナリオ通りにいくとは限らないので、シナリオが100%と勘違いすべきではない。
というようなことを考えていた。
ところが、日経メディカルオンラインに「なぜ渡航歴ない新型インフルエンザ患者を拾い上げることができたのか?」という題名で、「国内1例目の新型インフルエンザ感染者が確認された。患者には渡航歴がなかったため、なぜPCR検査が行われ、拾い上げることができたのかについて話題になっている」として「この点について、静岡がんセンター感染症科部長の大曲貴夫氏に解説してもらった」記事が載っていたのをたまたま目にしてしまった。
-----------------------------------------------
ひと言でいえば、現場の医師の感覚はやはりするどい、ということだろう。
現在 日本で主に流行している季節性のインフルエンザはB型で、A型は流行していない。それなのにクリニックの医師が診た高校生は、迅速検査でA型陽性だった。この地域の高校生の間でこの時期にインフルエンザ様の症状を訴える方が増えているとの情報もあったようで、これはおかしいと、検体を公的な検査機関に送ったのではないか。
検査までには3日かかっている。これについては、おそらく検査機関が渡航歴のある発熱外来受診者の検体のPCR検査を優先したのだろう。渡航歴のない人の検体が後回しになるのは自然なことだ。
今回の事例について、「PCR検査をするまでに3日かかった」と、またもや非難論調が出ている。しかし私たち医師はそこを問題視するのではなく、全国的にはむしろB型インフルエンザが多いこの時期に、A型が限られた地域で多発していることに対して「何やら異常である」という感覚を持てることの重要さを、この事例から改めて学ぶべきだと考える。
(以下、略)
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/opinion/orgnl/200905/510717.html
--------------------------------------------------
この記事では明確に書かれていないが、地域の医師間では、この時期にしてはインフルエンザ患者数が多いとか、A型の率が高めということが話題になっていたそうである。
つまり、国の定めたシナリオがどうであれ、実際の現場データーに不審な点があるということで、ある病院の医師がシナリオよりも現場データーを重視してPCR検査を依頼していただいたおかげで、流行が、高校バレーボール部中心のセミ・パンディアック段階で新型インフルエンザ患者を拾い上げることができたということであろう。
もしも、国がシナリオに基づく対策に力を入れる(これは必要であるし、限られた医療資源からやむを得ないことだろう)だけでなく、そのリスク(シナリオ通りに進む可能性が高くとも「絶対ではない」)も念頭に置いていれば、例えば、インフルエンザ(症状)の発生数やA型の比率を地域ごとに把握して「変なデーター」はないかということをチェックするようなシナリオ以外のことに対する警戒網をはっておくような補足対策がなされ得たはずと思うがどうだろうか。
もっとも、現場のことを知らず、ただトップ・ダウンの指示・監督しかできない厚生労働省の立派な医師免許をもった「役人」には、このようなボトム・アップ型の対策は発想のはるかに外かもしれないが。
この記事を読んでいるうちに、なぜ見つからなかったのかということを追求するよりも、なぜ見つけられたのかということから教訓を汲みだすほうが建設的に思えてきて、本記事の題名を「なぜ、新型インフルエンザが見つかったか?」に変更したのである。
*******************************************
ところで、抗がん剤治療にしても、エビデンス(及びその医師の経験)から、効果や特に副作用について、もっともありそうなこと(シナリオ)を念頭に置きつつ治療を進めていくことは重要であるし、副作用の予防・緩和対策や見落としを防ぐためにも重要だろう。
しかし、個々の患者はシナリオではない。
いや、シナリオは平均値であり、平均値とまったく同一という患者は少数派ではなかろうか。
シナリオがどうあれ、個々の患者ごとの状態(インフルエンザの例でいえば、この時期にしてはインフルエンザ患者が多い)を全体的に把握して、変なことが混じっていれば、対応なり注意深い経過観察をする。
シナリオは、よしんばどのように優れたシナリオであってもシナリオにすぎない。
目の前で展開されている事実を観察し、おかしなことがあればシナリオに拘泥しない。
これが重要ではなかろうか。


最近のコメント