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2009年3月30日 (月)

わかりやすい言葉

前回、緩和医療の本ということで「余命半年」(大津秀一 ソフトバンク新書)を紹介した。
これを書いたのは、現役緩和医師であるが、著者略歴によれば、三十前半の若い医師である。

このためか、いくつかのわかりやすい言葉(説明)が記憶に残った。
一般的に、複雑な医療についてのわかりやすい説明というのは、ある程度は正しくても、わかりやすさゆえに切り落としてしまった部分(不正確さ)がある。
また、わかりさすさ(インパクト)故に、その表面的な印象が一人歩きし、その言葉の奥底に隠された大事な意味が読者から落ちてしまう危険も高い。
このためだろうか、きちんとした本を書く人(年配のベテラン医師)は、正しく書こうと努力しすぎて、わかりやすさが減ってしまうことも多い。

どちらが良いというものではないが、いくつか目にとまった言葉(説明)と、私なりの補足を書いてみたい。

この記事で紹介・補足するのは、「世の中には、①ほぼ治る病気と②治る場合も治らない場合もある病気と③ほぼ治らない病気とに大別される」という言葉(説明)である。
さらに、この本での説明をまとめると 、
①は若年性の風邪や、健康な女性の膀胱炎などがあり、薬剤の使用で、あるいは、使用しなくとも治ってしまう。
②は高齢者の肺炎などがあげられる。重症化して命にかかわるかもしれないし、速やかに治るかもしれない。
③は怖い病気とは限らず、加齢による高血圧もほとんど「根本的には」治らないし、糖尿病も「根治」はほとんどなく、降圧剤やインシュリンなどを用いて対症療法をとっているというものである。
そして手術で取り切れないがんは、根治性が低いか、ない。高血圧や糖尿病と違うのは、治らない上に経過が早く、数年以内あるいはもっと早くに命にかかわるかもしれないことである。
根治性のないがんに対して「治せ」と願うのは、加齢性の高血圧を「完全に治せ」というのとほとんど同じで不可能である。
この社会はお金さえあればいろいろなものが手に入る社会となっている。が、ゆえに世の中には「けして叶わぬこと」があることが忘れられてもいる。
病気にかかったら、この病気は治るのか治らないのか、あるいは、治りやすいのか治りにくいのかをまず確認すべきである。
そして、病気が根治する可能性がある場合には、最も治療の成績が良いであろう病院を探すのが良いだろうが、根治する可能性が低いのであれば、根治のための医療が無効となった際の方針も考えておく必要がある。

最初に読んだときは、(頭の中で理解していたつもりでも)「治らない病気」という言葉に少しショックを受けるとともに、確かにそうであるとスッキリと頭の中に入っていった。

ひょっとすると、治らないならば何をしても同じと思われるのかもしれない。
もちろん、「真実」にそのような価値観ならば、それは一つの意見であり反対するつもりはない。
しかし、例えば、無治療で平均半年、治療をして平均2年である場合、その差の平均1年半は価値がないのだろうか。もちろん、予想される副作用も考慮に入れなければならないが。

よく知らないが、糖尿病の患者さんの平均寿命とそれ以外の人の平均寿命を比較すれば、いくぶんかは、糖尿病の患者さんのほうが少ないのではなかろうか。そして、無治療の糖尿病の患者さんならばもっと低いだろう。
このように考えると、糖尿病の治療にしても(延長期間に大きな差があるとしても)余命の延長ということでは同じもののはずである。

さらに言えば、数百年前は、人生五十年であった。今の日本では平均寿命八十年であり、齢百歳を超える方もいるが二百年生きる方はいない。
であれば、たかたが百年かその程度で死ぬことが避けられないのならば、生きていても仕方がないのだろうか。

より「極論」を言うならば、現在、多くの人が「いつかは(多分、百年以内に)死ぬ」という事実を忘れて、貴重な時間を浪費している。なお、ここで言う浪費とは、死ぬ時点になって、生きているときにああしておけば良かったのに時間を浪費してしまったと思うようなことであり、他人から時間の浪費と見えようと、死ぬときに好きに生きたと満足できるならば浪費にはあたらない。
その点では、きちんと「死」を見つめさせてくれるがんは貴重なものなのかもしれない(ただし、貴重なのは「その点」に関してだけであって、全体として貴重なわけはない)。
もっとも、そのような貴重な機会を与えられても、これから目を背けようとする人が多いことも事実である。

あまりに患者をしているのが長期間になると、それが日常化し、ふとこういう最初の頃の思いを忘れてしまう。

(治療の経緯のカテゴリーに書いているように)そもそも、積極的な抗がん剤治療を選択したのは、余命が、それによりかえって短くなるリスクが高くとも、積極的に前向きに進むのが自分の価値観であり、仕事において自分のみならず部下にも課したものであるからには、その価値観に最後まで背かないようにしたいと考えたからのはずであった。
また、K立がんセンターに(単なる経過観察のために)毎月外来に行っているのは、一つには随時セカンドオピニオンが聞けるからであるが、そもそもは、本当に治療法がなくなった(無理になった)ことを想定して、片足を残しておくためだった。
もちろん、K立がんセンターに緩和医療はあまり期待していないし、看取ってくれることもないだろうことは承知しているが、適切な病院の紹介ぐらいは期待できるということである。

ふと考えると、積極的な治療については、多くはないがいくらかの情報はある。
しかし、緩和については、(ホスピス協会参加リストぐらいはあるが)あまり情報はない。
緩和といっても、様々なはずである。
名前だけの緩和病院も多いらしい。そうでなくとも、他の病院での積極的治療との併用などについての姿勢はいろいろあるだろう。
さらに考えると、きっと主治医との相性の良否は、緩和治療でのQOLに大きな差をもたらすのではなかろうか。
であれば、積極的治療に関する病院選びよりも手間暇をかけるべきなのかもしれない。

私の場合は、現状からは急ぐということはないだろうが、折をみて近隣の緩和系の病院に直接に話を聞きに行ってみるのも必要なように思えてきた。
積極的な治療が無理になり、緩和がメインとなっても、その中での積極的な患者になる・・・これは私にとっては大事なことかもしれない。

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コメント

はじめまして!
今年2月19日、最愛の父が永眠致しました。
亡くなる2週間前まで働いていましたが、寝たきりになり8日で逝ってしまいました。
最後は在宅ホスピスでお世話になりました。
父は胃ガンから腸閉塞を起こしていましたので、在宅医にサンドスタチンやステロイドの投与をお願いしましたが、『私達は患者様の死を早めることも遅らせることもしません』と言う、一見もっともな意見でしたが納得いくものではありませんでした。
これは医療費が定額制(まるめ)であることから、高額な薬を使っても、点滴など一切しない会話だけの診療でも医療機関に入る収入は変わらない現在の医療システムによる弊害だと思っております。
薬剤料は自己負担にすると申し出ても行ってはもらえませんでした。
家族としては一日でも長く時間を共用したいのです。
緩和医療とは苦痛を取り除くのみで積極的?な治療はしてはもらえないところだと痛感し、父の緩和医療への移行があまりに急だった為、私のリサーチ不足が原因だと後悔しております。
粘る稀なガン患者様も充分にリサーチを!

さくら さん

お父様を亡くされ、まだ悲しみも癒えないでしょうのにご体験をもとにしたコメントありがとうございました。
たしかに、ホスピスには、名前だけのホスピス(緩和医療すらしない)ところもあると聞いています。

そして、その理由として、お書きになられた定額制(治療をしてもしなくても実入りは同じならば何もしないほうが病院にとって儲かる)があるようです。
他方、十二分な緩和医療をしようとすると定額だけでは足りなくなり、高めの個室料でカバーせざるを得なくなってしまうという場合もあるようです。

しかし、お父様の状況を直接に見たわけでないので断定的なことは言えませんが(例えば、閉塞が完全閉塞だったのか不完全閉塞だったのか。これによる嘔吐は?)、一応、がんによる腸閉塞にサンドスタチンというのはきちんとした医師ならば最初に思いつくものでしょうし、ステロイドは緩和医療の基本薬です。(ただし、サンドスタチンは在宅ではなぜか保険適用外ですが)

まさしく、緩和医療のために用いるものを私達は患者様の死を早めることも遅らせることもしません』というのは、あまりにも不正確な説明のように見えます。

なお、亡くなられる一週間前まで仕事を続けられていたということは、それだけ、それまでの治療がうまくいっていたということかもしれません。

いずれにしても、精神的なショックがまだまだ残っていらっしゃると思います。
ご体調にお気をつけてください。
また、お父様の冥福をお祈りします。

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