休眠療法 -2-
休眠療法については、ある意味で、がんに効くと称する健康食品と似たところがある。
どちらも、副作用がなく(あるいは極力少なく)、がんに効くという、そうあれば良いなというものである。
もっとも、一方は「がんが完治」などということをいうことが多いのに、他方は、「がんの増大を押さえる」といっているところが異なる。また、一方は、どう見ても「業者」さんなのに対して、他方は、まっとうな医師がやっている(場合もある)。
なによりも似ているのは、標準的治療よりも優れていると主張するのに、それに見合ったデーターを示さないことである。一方は(どうみても作文としか見えない)患者の体験談(と称するもの)であり、他方は、その医師の体験談程度しか示されない。
もちろん、休眠療法では、投薬量や薬の種類を細かく変更しながら行うのであろうから、通常の治験に相当するようなデーターをまとめることは困難であることは理解できる。
しかし、例えば、患者さんのがんの種類・ステージと休眠期間といったものをまとめて示すことはできないとは思えない。
この程度のデーターでも、標準的治療と比較して、どの程度優れていそうなものか/どれくらい劣っていそうなものか(←副作用が軽微なのだから、多少劣っていても許容するという患者は多いかもしれない)ということについて、おおよその検討をつけることは可能であろう。そして、これが有望なものならば、休眠療法に挑む医師もおのずから増えてくるだろう。
休眠療法を行っている医師に梅澤先生がいる。先生は本のほか、ブログ(「現在のガン治療の功罪~抗がん剤治療と免疫治療」)で積極的に経験を発信されているのでご存じの方も多いであろう。
個人的には、熱意にあふれ、また、病院と診療所の使い分けなどといった患者負担にも配慮なさるというその姿勢には深く敬意を払う。
お目にかかったことはないが「良医」でいらっしゃるのだろうと思う。
もちろん、行っていらっしゃる休眠療法自体については、患者の希望を踏まえたものでありとやかく批評するつもりはないし、また、それだけの能力もない。さらにいえば、もととなるデーターが示されていない。
とはいうものの、ブログを読ませていただく限りでは、いくつか気にかかることがある。
はっきりと言えば、標準的抗がん剤に「感情的偏見」をお持ちのようにも思える。
「標準的に大量の抗癌剤を使って、抗癌剤という爆弾だけでガンと戦っていく治療」だとか「度重なる激しい抗癌剤爆撃」などと書かれている。さらに「現在の、人間が耐えることのできる最大耐用量の抗癌剤を使う標準的な抗癌剤治療では、それと年単位で付き合える人間はほとんど存在しません」とまでされているが、現実には、私の周囲にはその「ほとんど存在」しない方が大勢いる。
もちろん、梅澤医師にいわせれば、そのような「少数例」がいることは否定していないというであろう。
そして、自分の体験では、これは少数例だとおっしゃるだろう(そうでなくては、ブログで書かれている趣旨と違いすぎる)。しかし、先生のもとに来ている患者さんは、副作用が強く標準的抗がん剤を許容できなかった人が大多数のはずであるから、梅澤医師の体験は「偏ったもの」にすぎない。梅澤先生のもとに行っている患者よりももっと多くの患者が標準的抗がん剤を許容できる範囲の副作用で受けているのかもしれないのである。
少なくとも、梅澤医師の経験は(休眠療法を積極的に希望している患者という)限られたものであるはずである。
それにもかかわらず、このような断定的な表現(それも、読む人の「感情」を刺激するような)をとられるのは軽率ではないでしょうか。
また、標準的抗がん剤治療について「「無治療よりは○ヶ月だけ長生きできる」というご立派なエビデンス・・・標準的な抗癌剤治療に対してどれだけの患者さんが満足できるのでしょうか」とか「エビデンスどおりの治療を行い、エビデンスどおり結果に終わる。」と書かれます。しかし、これには二つの問題があります。
エビデンスというのは平均ですから、当然、これよりも結果の良い方もいます。また、効果が出なければ、ただちに、次の選択薬を試すはずです。したがって、「エビデンスどおりの結果に終わる」と断定できるわけはありません。
なによりも、私も、確かに現在の抗がん剤治療に満足はしていません。しかし、それ以上に重要なのは、よりベターなことが示されているものがないということです。
梅澤医師が、このような批判を行うからには、ご自身の休眠療法がベターなものであることを(体験談ではなく)示されることが先決のはずです。
患者が「満足していない」ことは事実です。しかし、より良い治療を示さずに、とりあえず最有力とされているものを批判するのは医師としてどうなのでしょうか。
また、胃がん手術について「先ずは、内視鏡手術が可能であるか否かを納得のいくまで調べてみることは重要だと思います。取ってしまった胃は、二度と戻りませんから・・・・
また、内視鏡手術が不可能な患者さんでも、 お腹を大きく切る手術ではなく、・・・腹腔鏡での胃切除手術」と書かれているがこれについても梅澤医師の姿勢が感じられる。
内視鏡や腹腔鏡が患者の受ける負担が少ないことはいうまでもない。しかし、その反面、開腹手術では容易に確認できる腹内の状況(某医師によれば開腹手術は最大の検査だそうだ)の確認についてはマイナスとなることも忘れてはならないはずである。
本当に早期ならば、このようなマイナスは問題とならないだろう。しかし、適用かギリギリの場合は、このようなことも含めて判断されるべきだろう(もちろん、最終判断は患者)
短期的な患者の負担軽減を重視し、総合的な患者の利益を低く思われていなければ幸いであるが。
最後に、梅澤医師は免疫を重視されており、標準的抗がん剤やその他の薬で免疫が落ちるということに反対しているように見える。例えば「白血球の減少が無い患者さんでは、ご自身の肉体が作り出しているそれは大きな力を発揮」とか、「免疫力を落としてしまったならば、抗癌剤だけでは、ガンとはとても戦えません」あるいは「免疫力を確実に落とすことが分かっているステロイドは極力使わない」などと書かれています。しかし、がん治療に対して免疫が無意味というつもりはありませんが、ここでいう免疫は、当該がんに対する特異的な免疫のはずです。そして、承知している範囲で、この特異的な免疫についてきちんと測定もできませんし、また、実際にどの程度の意味があるものかも不明なはずです。
免疫が大いに力を発揮していることを否定はできませんが、逆に、大した意味を持たないかもしれないということも否定はできにいでしょう。一言で言えば「不明」というのが正しいのではないでしょうか。
もちろん、梅澤医師がそのような考えを持たれるのは結構ですが、といって断定的にいわれるのはどうなのでしょうか。
いずれにしても、休眠療法の有効性は、まだ示されていない(肯定的にも否定的にも)というのが正解でしょう。
有効性が示されていないということを理解した上で、休眠療法にトライされるのは一つの選択です。しかし、休眠療法が「宣伝どおりの」効果があるに違いないと信じて治療を受けようとするならば(対象が「まがい物」と「可能性がある物」という大きな違いはあるにしても)がんに効くと称する健康食品を購入するのと大差はないでしょう。
ところで、休眠療法の基本的考え方(と理解している)の「がんの縮小ではなく非憎悪重視」「副作用重視」には同感です。
とはいっても、一部の抗がん剤が効きやすいがんを除けば、非憎悪重視は当然でしょうし、標準的抗がん剤治療にしろ、そうでないにしろ、ほとんどの抗がん剤治療の現場はこれによっているのではなかろうかと思います。
また、「副作用」についても、耐えられないような副作用が出ているのにこれを無視して、薬の減量や変更をしない医師は少ないでしょう。(ゼロではないのは問題ですが)
標準的抗がん剤治療にしても、効果や副作用に応じた変更というのがその前提にあるべきですし、だんだんとそのようになりつつとあるという印象を持っています。
とすれば、一昔前の「硬直した抗がん剤治療」に対する「アンチテーゼとしての休眠療法」の意味は薄くなりつつあるのではないでしょうか。
そのような理想論・感情論ではなく、データーをもってその優位性を示すことが求められているような気がします。
(いまだに、標準的抗がん剤治療=最大限の薬の量しかできない、それでいて、副作用を抑えきれない医師の存在という問題を無視してはいけませんが)
最後に、私の場合は、「がんの縮小ではなく非憎悪重視」「副作用重視」ではあるものの、それこそ最大限に近い抗がん剤により「変化なし」が維持できています。また、これまでのところ、無理なくこれにつきあえています。
やっと「変化なし」が維持できているのに、薬量を減らしてみるような「勇気」は私は持ち合わせていません。
休眠療法のいうように少ない薬量(副作用ほとんどなし)でこれが可能ならば、一つの「理想」ではありますが、といって、可能性に過ぎない(それも私の判断では、かなり可能性の低い)理想のために現実を賭けるつもりはまったくありません(少なくとも現在のところ)。


いやースッキリした。あのブログを読んでいて言いたくても言えなかったことを鋭く表現してくださって有り難うございます。さすがですな。
昨日挙げた掲示板では、MDアンダーソンの上野先生が「この時点で臨床試験の枠の外でこの化学療法の出し方は問題です。問題と言うよりも倫理に反しています。・・確かに患者は副作用が少なくなる傾向があるのかもしれませんが、本当の患者のためになっているか全く分かりません。 」と書いてますね。
「すべて医者のさじ加減」ということで根拠なく薬量を調節されてしまっては、患者も医者も不幸かもしれぬ、と確かに思います。
投稿: nanoshi | 2007年2月24日 (土) 11時03分
nonoshi 様
コメントありがとうございます。
梅澤医師は、きっと患者のことを真剣に考えてらっしゃる良医なのだろうと思っています。
逆に、だからこそ、その書かれることが気になっています。
人間性に優れたかたが誤りをなさると、(その方が優れているだけに)周りの人間は批判的な見方ができずにその意見を盲信してしまい、いいかげんな方がなさる誤りよりも大きなマイナスを与える可能性があります。
一昔前まで、抗がん剤治療の大勢(だったらしい)副作用軽視に対するアンチテーゼとしては、休眠療法は大いに意味があったと思います。
しかし、効果・副作用に対するデーターをいつまでも示さないならば、それは、どのように理想的な内容であっても仮説なりイデオロギーにしかなりません。
(効果・副作用をどのような形式で示すのが可能かつ妥当かということはありますが。)
現状では、休眠療法は立派なイデオロギーではあるに留まっているのではないかと心配しています。
立派なイデオロギーが現実において優れたものとは限らないことは、(理想的)共産主義の歴史の語るとおりです。
もちろん、休眠療法が、現実においても優れたものであるのが最も望ましいのですが。
投稿: 粘る稀ながん患者 | 2007年2月24日 (土) 16時03分
はじめまして!
「梅澤」「トンデモ」でググってこちらを発見してやって参りました。
私も今あるガンの治療中で、今は抗癌剤ではない別の治療を受けていますが、もうすぐ抗癌剤治療に切り替えられそうなので、いろいろ抗癌剤の本を読んでおります。
その中に梅澤医師の本もあり、URLが載っていたのでブログを読むようになりました。
同時に「休眠療法」に関しては金沢大学(現在は千葉大学だそうですが)の高橋 豊教授の本を読み、その高橋医師の直接の弟子(?)である休眠療法を行っているクリニックがうちのすぐ近所にあるので、セカンドオピニオンに行って意見を聞いてきました。
結論から言うと、いわゆる高橋教授の「休眠療法」と、梅澤医師の行っておられる「ごく少量の抗癌剤をつかった治療」は、根底の考え方は似ているものの、似て非なるものだという事です。
高橋教授の「休眠療法」は少なくとも臨床試験にまで持ち込まれて、ある程度のデータは出ているのですが、
梅澤医師の独特の治療に関しては、仰るとおり、全くデータが出てきていません。
梅澤医師自身のブログによると「その日、その時の患者の状態によって処方を変えている」そうですが、まぁそりゃ正論かも知れませんけども、
だからといって「エビデンス」や「標準治療」をあそこまで敵視しなくてもよさそうなもんだが…と疑問に思っていたところです。
しかも、ブログに、あまりにも詳細に患者さんの容態や治療内容を事細かに書かれていたり、診察室には隠しマイクを仕込んであるなどと書かれてあるのを見ると、
ひょっとするとものすごく腕のいい先生なのかもしれませんが、自分のことが書かれたらと想像すると、引いてしまいますね。
なので、実はセカンドオピニオンを申し込んでいたのですが、
「隠しマイクをしかけてあります」というブログをみて、急遽キャンセルしましたw
現在は、家の近所の某ブランド病院で治療を受けていますが、別に医師に対して不満は全くないので、気長にガンと付き合って行こうと思ってます。
抗癌剤で脱毛が始まったら、頭をツルツルに剃って、ヅラ集めを趣味にしたり、「あけましておめでと~」とヅラを取って笑いを取ったりしてやろう、と
ひそかに楽しみにしておりますw
長文、乱文、誠に失礼いたしました。
投稿: 豆大福 | 2007年12月 4日 (火) 15時12分