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2006年12月27日 (水)

もう一つの日米比較

NHKを筆頭に、マスコミやネットの中で、「米国のがん治療に比較して、わが国は・・・」という論調の報道をよく見る。

たしかに、がん治療についていえば、放射線治療は遅れているし、抗がん剤治療については比較するのもおこがましいといったところらしい。
(しかし、手術については、日本の一般外科医は米国に行けば名医らしいが、決して、このようなことは報道しない。)

がんの三大治療のうち、遅れている二つだけをとりあげ、外科のことをとりあげないのは、偏向しているような気もしないでもない。もっとも、より良い医療を求めての報道であれば、遅れている部分に焦点を当てるのは当然かもしれない。

しかし、そもそも治療のためにどれだけの資源(お金)をかけているのかについてもあわせて比較するべきだろう。

一泊○万円の一流ホテルと比べて、数千円のビジネスホテルのサービスが劣っているといっても仕方がない。高級料亭の懐石料理と居酒屋のもつ煮を比べても意味はない。
(もっとも、老舗の千円の蕎麦よりも、二百五十円の立ち食い蕎麦のほうがおいしいこともあるかもしれないが)

日米の医療費はどうなっているのだろうか。
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まずは、統計。

最初に注意しておくべきことは、国際比較では、例えば、医療費の範囲が国によって異なっている可能性がある。例えば、市販のビタミン剤は医療費か、健康食品はどうか・・・。
異なった統計で比較するとととんでもないこととなりかねない。

ということで、OECDのまとめているHealth Data 2006を利用することとした。日本は2003年データ、米国は2004年データとなっているが、一年の違いならば問題はないだろう。
国際機関の統計は、一応、それぞれの項目についての定義が示された上でなされるので比較的信用がおけるものといえよう。
(それでも、誤差がないとはいわないが、入手可能なものとしては一番優れていよう。)

ちなみに、日本の概要は
http://www.oecd.org/dataoecd/30/19/36959131.pdf
米国の概要は
http://www.oecd.org/dataoecd/29/52/36960035.pdf
をご覧いただきたい。

早速、医療費(Health expenditure)のGDP比率を見てみると、
・ 日本は、8.0%であり、OECD平均(8.9%)よりもやや低い程度
・ 米国は、16.3%であり、OECD平均よりもかなり高いのみならず、2位のスイス(11.6%)も圧倒的に引き離してのトップ
となっている。GDP比率を単純に比較すると倍・半分である。

一人当たりの医療費では、米国6102ドルに対して日本2249ドルとそれ以上の開きがある。(ちなみに、OECD平均は2550ドル)

このほかのものとしては、次のような数字が記載されている(いずれも、人口1000人当たり)
            日本   米国  OECD
臨床医          2  2.4    3
看護師          9  7.9  8.3
急性期療養用ベッド    8.4  2.8  4.1
(ただし、「急性期療養」の定義が異なっている可能性ありとの注釈がある。)

ざっとみると、米国の医療にかけるお金は日本の倍以上である。
一流ホテルとビジネスホテル、料亭と居酒屋ほどではないが、同じテーブルにのせて比較するのが適当とも思えない。
この際、注意すべきは、日本が少ない(多少は少なめではあるが)というよりも、米国が際だって多いということである。
とすれば、米国標準がそのまま国際標準とは限らない。

日本の医師だって、倍の経費を使って良いのならば、もっと違った治療が出来るかもしれない。

どうせ、がんに関して日米比較をするならば、日本の喫煙率30%(特に、男性47%)は、OECD平均25.5%よりも高く、33.5%(1980年)から17.0%へと低減させた米国とは好対照をなしていることを取り上げて欲しい。

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統計は統計として、実態はどうなっているだろうか。

「ゆるりと肺がん記」というHP(http://www.yururi.net/index.html)に、在米の膠原病(抗ガン剤を使用した治療を受けている)の患者さんからのメールがまとめてあったので、その中から引用させてただく。
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お金がなくても中程度以上の治療が受けられるという点では日本はいいですね。それに看護計画も細やかで至れり尽くせり。
私が感じる範囲では、アメリカでお金がない人たちが受けられる医療は最小限だけのような気がします。形ばかりの。

腎臓生検のために1泊入院して $6890、
PETを撮って $5320、
肺穿刺の検査で $5100、
胸部CTが $1184
外来で受ける化学療法(キモセラピー)1回が $2590
これ全て最近私が受けたものですが、こういう数字を見るたびに医療保険を買えない貧乏人は死ねってことかね、と思ってしまいます。
アメリカの医療費はとても高額で、医師は患者の保険加入の有無とその種類も考慮して治療方針やそのための検査を進める必要があります。少し前ですが、日本から来た留学生がアメリカで末期癌と診断され、2週間入院して、診察・検査・手術・そして1回目のキモセラピーを受けたところで、日本から加入してきた旅行者保険の満額1千万円を超えてしまった、ということもありました。
http://www.yururi.net/takako/05/taka050930.html
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

抗がん剤の種類はわからないが、多分、特別なものではないだろう。
その化学治療が1回で$2590(約30万円)。それも外来で・・・
(米国では、入院費はベラボウに高いということで外来が主と聞いていますので、入院でならば、さらに高くなるはず。)

日本で、病院窓口で支払うのは一部負担部分(例えば3割)のみではあるが、それを考慮しても倍額ではすまない感じだ。

ちなみに、米国には、日本の健康保険制度に当たるものがない。では、個人加入の保険により、どの程度がまかなわれるのかなどはどうなっているのか。

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アメリカの医療保険について、私は個人加入の医療保険に入っています。
10年前に膠原病を発症する前から加入していたものです。
これはとても大事なポイントで個人加入の場合、既往歴、特に癌や心臓病、難病を持っていると、まず100%加入を断られます。加入後発症した場合は、追い出されることはありません。

ということで、今加入している保険を解約したら、高額医療費消費者の私を受け入れてくれる保険会社はないので、たとえどんなに保険料が値上がりしても(毎年1、2回は値上げされる)今のこの保険にしがみついている必要があります。加入者の年齢と何百種類もある保険のタイプによって加入金は異なりますが、私の場合、年間の保険料$5000と年間の自己負担額が$5500を越えた時点で、そのあとは100%保険によって支払われます。
そしてそういう保険の使い方した翌年は保険料がボンッと値上げされます。
病気になることを予想していたわけではありませんが、比較的適応範囲の良い保険に加入していたため、家を売らずにここでの治療が可能となっています。

今年もとっくに自己負担免除状態になっており、保険会社のブラックリストに載っていそうです。・・・保険屋のセールスマンみたいになってしまいました。

http://www.yururi.net/takako/05/taka051002.html
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この方の場合は、保険料と自己負担額あわせて10500ドルなので、月に直せば10万円程度の負担で済んでいる。
(この方の場合は、幸運にも、個人保険に加入されていたわけですが、不運にして、病気にならなければ(なっても年間の負担額が約60万円を超えるまでは)、毎年50万円以上の保険料を掛け捨てということになるようです。)

これだけ費用がかかるのであれば、保険に入っていなければ、きちんとした抗がん剤治療は無理かもしれません。
逆に、このおかげで、これだけの費用を払えない人たちが、進んで「治験台」となり無料の治療を受けようとするので、米国では新薬開発が進むとの話を聞いたことがあります。
真偽はさておいて、さもありなんとも思わせます。

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いつも以上に長い記事になりましたが、私なりのまとめをしたいと思います。

まず第一に、米国は、高価格・高サービスを、比較的裕福な層に与える体制を基盤としており、これは、日本とは、大きく異なっているし、国際標準とも思えない。

第二に、そのような基盤が異なっていることに目をつぶって、日米比較をすることにはかなり無理がある。もちろん、基盤の違いがあるにしても、相互に学ぶべき点はあろうから無意味とまではいわないが。

第三に、真に米国の真似を真実、追究するならば、そのために必要となる費用をどうするのかもあわせて検討しなければならない。現状ですら、健康保険制度や現場の医療は「悲鳴」をあげている。

個人的には、最低限の治療は当然として、現実に国民が負担できる健康保険制度により可能な限り国際標準レベルの医療を確保する(なお、国民の負担可能な範囲ではまかなえなけりば、国際標準に達しなくとも仕方がない)。
それを超えた部分は、個人の負担とするしかないと思っている。少なくとも、これまでのように、全てを健康保険でまかなうという建前では、国民均しく貧乏ということとなりかねない。
最低限でも、混合治療の禁止という、実質的には「健康保険以外の医療禁止」という現状は変更すべき、というよりも、変更せざるを得ないと考えている。

言葉を換えていえば、現在の日本の健康保険制度は優れたものであり、日米比較と限らずに、どの国と比べても胸を張れるものである。
しかし、米国の状況などを見ていくと(あるいは、日本の「現状」を見るだけでも)、健康保険制度に限界が訪れつつある。

このような医療の根本部分の比較をしないで(隠しておいて)、いろいろな治療の日米比較をしているマスコミは国民をミスリードしようとしているとしか見えない。

(注)
記事をアップしたところ、「「在米の肺がん患者さん」ではなく「在米の膠原病患者さん」である。ただし、その病気でも抗ガン剤を使用している。」との趣旨のご指摘をいただきました。
このために、一部記事の訂正をしました。(06/12/27 18:20)

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コメント

引用してくださり、ありがとうございます。こちらでコメントを書くのは初めてです。

米国の医療費が高額であるというのは、ここで引用くださった膠原病患者さんだけでなく、アメリカ在住でがんが見つかり、日本へ戻ってきて治療を受けている方も書いていました。日本でウォシュレット付高額個室に入院するほど余裕がある人でも、アメリカでの治療を望まないのだなぁと思ったものです。それからアメリカ在住のスポーツライターも歯医者にかかっても信じられないぐらいお金がかかることを嘆いていました。とにかくアメリカでは保険に加入(種類にもよりけり)していないと病気した場合、悲惨なことになるようです。

NHKの場合、国の医療政策に沿った問題提起をするだろうということは予測できますが、統計がいかにもミスリードするような見せ方をしている点が以前にも問題だと感じました。その後、臨床医ネットなどでも意見書が出ましたが、ディスカッションでも意味ある発言を削ったり、発言を切り貼りしたりが見受けられたそうです。それを編集作業というのでしょうが、放送側の意向が入るのであれば生放送してほしいところです。

いろいろネットで調べられる人はわかりますが、テレビを見ているだけの人はNHKの情報は正しいと信じてしまうでしょう。「統計は母数不明、条件不明、回答率不明、方法不明なので、参考程度にとどめてくださいぐらい」(これは統計とはいえない。大学で教養過程を履修していればこれぐらいウソと看破できるはずです。でも、なぜか大学進学率の高い日本でもだまされてしまうのが不思議なところ)の注釈がほしいですね。

そして、民放でこのごろ保険会社のCMが多いことを見れば、健康保険だけでは不安だという風潮になるのも当然でしょう。マスコミの顧客はスポンサーです。会社を維持する原資はすべてスポンサーから出ます。ですから顧客にこびるのは当たり前。このようなミスリードについて良心の呵責はないでしょう。

マスコミが必ずしも本当のことを伝えていないということを考察できる頭をもたないとだめですね。“粘る稀なガン患者さん”の「まとめ」に全面的に賛成です。日本で培われてきた、あるいは行政が規制を作って守ってきた良い仕組みがことごとく壊れるような状況が起きています。単に欧米がいいからとり入れるということでなく、長い目で日本の医療を考えた仕組みを考えるべきです。そのための辛抱ならば、せざるをえないと納得します。

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