<膵内分泌細胞がん患者さんへのお知らせ>
ご存じのように日本では、膵内分泌細胞がんに対して、海外で第一選択とされているザノザール(ストレプトゾシン)は未承認であるし、これについで有望であるテモダールも脳腫瘍に対してしか認可されていない。
このため、保険適用の範囲で化学治療を受けようとすれば、これらよりも効果が落ちることが見込まれるシスプラチン+エトポシドかジェムザール程度(これらに、サンドスタチンを追加しても良い)であろう。
ところで、最近、海外では、分子標的薬であるスーテント(海外では承認)やRAD001が、既存の抗がん剤を遙かに上回る効果が見込めるという治験結果が発表されている。
残念なことに、スーテントについては膵内分泌細胞がんを対象とする治験は行われていないようなので、これが我が国で膵内分泌細胞がんに適用されることは、健康保険制度が大幅に変わらない限りなさそうである。
他方、RAD001の方は、国内治験が開始されている。
それだけでなく、まだ、参加枠が残っているようなので、条件が折り合えば、これに参加してRAD001の投与を受けることができるという、ある意味で、極めて耳寄りな情報である。
以下、知り得た治験情報とそれに対する私見を書くので、膵内分泌細胞がん患者の方は、良く読んでいただきたい。
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RAD001について
RAD001は、mTOR阻害薬という新しい分子標的薬である。
といっても、患者にとっては、mTORがどんなものかよりも、薬の効果・副作用が大事である。
これについては、2007年のASCOで第Ⅱ相治験結果が発表されている。
すでにこのブログで前に書いたが、
「治験者数60名(カルチノイド(C)30名、膵内分泌腫瘍(I)30名)に対して、PR10名(17%、(C13%、I20%))、SD45名(75%)(うち、15%以上の縮小15名)、5名PDとより結果が良くなっている。また、24週時点で効果が継続(PFS)している割合は86%であり、効果継続の中間値(median PSF duration)は59週(C:69週、I:39週)である。
副作用は、弱い口内潰瘍?(aphthous ulceration)であるとしているが、グレード3/4の副作用も報告されている」というものである。
http://neuroendocrine-tumor.cocolog-nifty.com/pancreac_endocrine_tumor/cat5059515/index.html
この成績は、スーテントには及ばない(といっても、対象数が少ないし、比較治験はなされていないので、現実に劣っているかどうかは不明)ものの、これまでの抗がん剤の治療成績を大きく上回るものである。
すなわち、RAD001は極めて有望な治療の選択肢である。
治験の概要
我が国の治験は、国際共同治験の一部として位置づけられているらしい。
米国NCIのHPに情報が載っているので、確認したい方は、下記を見てください。
http://www.cancer.gov/search/ViewClinicalTrials.aspx?cdrid=563761&version=pati#ContactInfo_CDR0000563761
(国内の参加医療機関のHPをみても、本治験についてはなぜか載っていないので、ネットで得られる情報はこの程度である。)
これではわからないところも多いので簡単に説明すると、
「進行性膵内分泌腫瘍の患者を対象にRAD001 10mg/日と至適支持療法(BSC)の併用をプラセボとBSCの併用を比較する第Ⅲ相、ランダム化、二重盲検試験」というのが正式名称である。
(1)対象
進行性の高分化型膵内分泌腫瘍患者(ただし、現在、増悪しつつあること)である。
治験であるから、全身状態、骨髄抑制、CTで計測可能であることなどいくつかの条件はあるが、これまでの治療歴はmTOR剤の経験のないこと以外は問わないということで、この種の治験としては、極めて対象が広く設定されている。
なお、治療を受けている(受けていた)場合には、治験と最終治療の間に4週間以上が必要(wash out期間) とされる。
(2)内容
治験の名前の通りであるが、至適支持療法というのは、例えば、疼痛緩和のようなものだから、RAD001 10mg/日と偽薬(つまり消極的治療のみの無治療)を医師も患者がどちらに入っているのかわからない状態で比較する試験であると大筋思ってもらえばよい。
ただし、「偽薬(つまり消極的治療のみの無治療)」に入った人に対しても、増悪判明などにより試験終了後に、オープン試験として(本人が希望し、全身状況などに問題がなければ)RAD001の投薬を受けることができるというものである。
RAD001は経口薬なので入院ではなく、自宅で決められたとおりに薬(または偽薬)を毎日服用し、数週間に一回、治験機関の外来を受診することとなる。
なお、治験費用は、当然ながら無料のようである。それどころか、外来ごとに、ある程度の謝金がもらえるようである。
(ちなみに、RAD001は承認前であり値段は不明であるが、同程度の効果が見込まれるスーテントならば月に50~100万円が薬代だけで必要となる。)
(3)治験の申込先
国内での治験機関の数が限定されており混乱を避けるため、ネットでのオープンは避けて欲しいとのことである。
このため、これ以上の情報が必要な方は、製薬企業(ノバルティス)に直接にコンタクトしていただくか、私のフリーアドレス(プロフィール欄に記載)にメールをいただきたい。
(4)注意点
できる限り間違いないように書いているつもりではあるが、治験内容や条件などは治験機関できちんと確認した上で判断いただきたい。
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治験に対する私見
この治験の特徴を私なりに分析してみたい。
治験として見ると、薬vsプラセボの二重盲治験ということと前治療歴を問わないというのが本治験の大きな特徴のように思える。
これは、患者数の少ない稀ながんにおいて、厳密な治験をするためには、通常の治験と同様に前治療歴を制限すると患者を集めることが困難になるし、逆に、これを緩めて、信頼性と意味のあるデーターをとるためには、「薬vsプラセボの二重盲治験」という厳密な形式が要求されるということだろう。
この場合、プラセボ群の使用という倫理問題が残るが、これについては、オープン試験参加ということにより、無治療期間が発生するものの、膵内分泌細胞がんは比較的進行が遅いため影響が限定されるだろうこと、もしも参加しなかった場合の代替に適当なものが少ないこと(特に、治療前歴がある場合)から正当化しているのだろう。
ということで、本治験の基本プロセスは膵内分泌細胞がんの性格に見合ったものになっているということのようである。
次に、この治験に対する評価である。
少なくともこれまで公表された結果を見る限り、RAD001は、膵内分泌細胞がんに対する極めて有力な治療薬である。しかも、我が国では、有力な既存薬が未承認ないし適用外であるだけになおさらである。
もしも、治験に参加して、RAD001が投薬されて効果があれば問題ないし、残念ながら、無効であったとしても、他によりよい選択肢もないのだから、これは、どのような治療にもつきものの、運・不運の問題である。
問題は、プラセボに当たった場合である。
この場合、最初の効果判定まで、wash out 期間を含めると、4ヶ月程度無治療となる可能性がある。
この時点で増悪に伴い、オープン試験に参加できないというのが最悪の可能性である。
次に悪いのは、オープン試験に参加して、RAD001の効果がなく、つまり、半年以上、無駄になるというものである。もっとも、この場合でも、RAD001自体は立派な選択肢だったのだから、無治療4ヶ月の損失というも
である。
ということで、総合的に意見を書けば、
1.進行の程度から、まだ余裕がある(例えば、無治療でも1年以上の余命が見込める)ならば、4ヶ月のマイナスは大きな負担にならないのであるから、参加を勧める
2.余裕が少ないならば、他に有効な治療もないのだから、損をする可能性承知ということで参加することは有力な決断ではあるが、といって、他人に勧めるというところまではいかない。なお、治験に参加しない場合の代替策としては、あまり成績が良くない認可薬を使うか、経済的負担を覚悟でスーテントを個人輸入するかというところだろうか。
自分自身の治験参加希望について明らかにしておかねば、無責任だろう。
現時点において、「がんが進行していること」と「骨髄抑制(血小板数)」の二つから治験参加条件を満たしていない。
前者の方は、そのうちに現行レジメンが無効になるだろうからよいとして、問題は後者である。現行レジメンが無効になった後、ある程度の休薬で骨髄抑制が回復してくれれば、是非とも参加したいと考えている。
しかし、なかなか回復しないようであれば、無治療をどこまで続けて回復を待てるか、かなり、その時点での思い切りに基づく決断が求められるかもしれない。
(いずれにしても、その時点での治験枠が残っていることが大前提ではあるが)